高知県 尾﨑知事インタビュー


高知県尾﨑知事にお話をお伺いしました。

◆「献杯・返杯」一度盃を交わせば、みんな友達

澁谷:高知県の魅力についてお聞かせください。

尾﨑知事:高知県の魅力は、なんといっても「人が面白い」ことです。高知県の宴会は本当に楽しく、「一度飲めば友達」というのが土佐人であり、ミニ坂本龍馬みたいな人がたくさんいます。お酒の飲み方にも特徴があり、盃を酌み交わすようにして、互いに「献杯・返杯」と言って盃をやり取りしながら一緒に飲むという文化があり、宴会を通じて友達になりやすいのが高知県民の特徴です。ずばり、高知県の魅力は「人」です。

自然があり、食べ物が美味しいことは言うまでもありませんが、高知県には魅力的な歴史もあります。魅力ある文化の中で坂本龍馬は生まれ、後の自由民権運動に発展しました。そして、自由を象徴するお祭りとして「よさこい鳴子踊り」があります。「よさこい」は全国200箇所以上の地域で踊られている高知県発祥のお祭りで、地域毎に個性があって異なりますが、一方で「よさこい」としての繋がりも持っています。それぞれの個性を活かしながら仲良くなれる、自由さと仲間が相並び立つ「よさこい」は、まさに坂本龍馬の想いに相通じる部分があります。

また、高知県の食文化として皿鉢(さわち)料理があります。大げさなことを言うようですが、これには昔からの土佐なりの男女共同参画社会の考え方があったと言われています。ご飯からメインディッシュ、デザートまでの全てを一つのお皿にのせることで、女性も仕度が一挙に終わり、一緒にお酒が飲めるという知恵があったのです。高知県では昔から皿鉢料理を囲んで、男女が一緒にお酒を飲んでいたと言われています。皿鉢料理などに象徴される食文化が面白い人たちを育み、面白い人たちによって濃い文化が育まれてきました。そのような雰囲気を味わえる場所として高知市には「ひろめ市場」がありますので、ぜひ行ってみてください。

◆ 地元ならではの美味しい食べ物が多い県 ”全国No.1”

澁谷:土佐料理の横綱とされる「鰹」や、全国シェア5割を占める「柚子」など、県自慢の食材についてお聞かせください。

尾﨑知事:鰹のたたきの美味しさに、県外の皆さんは驚かれます。私も東京で働いている時には、土佐料理のお店に行って、他県の人に鰹のたたきを食べさせて驚く姿を見るのが楽しみでした。鰹そのものの美味しさもありますが、長年築いてきた食べ方も美味しさのポイントだと思います。焼き加減一つとってもそうですが、藁で焼くことによって出る良い香りや、ニンニクと一緒に食べることなど、土佐独特の調理の仕方や食べ方が、驚くほど美味しいと思わせる味に繋がっているのではないでしょうか。

柚子は中岡慎太郎が奨励したことがきっかけだと言われ、北川村では200年近い歴史があります。「実生(みしょう)の柚子」というのをご存知でしょうか。一般的に柚子は接ぎ木によって生産されますが、高知県では種から育てた柚子の木や古木から生産されるものがたくさんあります。実生の柚子は香りが良く、最高に美味しいため、世界にも通じます。「桃栗三年柿八年、柚子の大馬鹿十八年」という諺があるように、実がなるまでに時間がかかる柚子を育てています。その競争力は簡単に覆されるものではありません。

澁谷:最近はマンゴーなども生産されているそうですが、その他の食材はいかがでしょうか。

尾﨑知事:高知県の食材といえば、鰹や柚子が有名ですが、野菜や肉も非常に美味しいと評判です。例えば、「土佐あかうし」は脂身の少ないヘルシーな牛で肉の味が濃く、県外からの熱いラブコールに応えて、現在、大増産中です。また、県外の方から「魚が美味しいと思っていたが、野菜も美味しい」という声を多く聞きます。トマトやナス、シシトウ、ミョウガ、ピーマンなど、様々な食材があるなかで、実は高知県は食べ物が美味しい県として、No.1の座に何度もかがやいた県なのです。じゃらん(リクルート社の旅行雑誌)が行ったアンケート調査では、「地元ならではの美味しい食べ物が多かった」県として、高知県は過去8回のうち6回も全国1位を獲得しています。

美味しい食材が多い理由の一つには、非常に手間暇をかけて作っていることが挙げられます。高知県は元々土地が狭く、園芸農業の発祥の地と言われています。園芸農業を通じて、温度、湿度、日射量の組み合わせに工夫を図り生産量を上げ、味を濃くするなどの努力をずっと積み重ねてきました。そのようにして、美味しくて付加価値の高い作物を一生懸命作ろうとしてきた結果だと思います。

澁谷:最近はジビエ料理なども、非常に美味しいお店があるとお聞きしました。

尾﨑知事:高知県では「高知家の食卓」県民総選挙というものを実施しています。県民の皆さんの投票によって地域毎のチャンピオンを選び、そこからグランドチャンピオンのお店を選びます。そこで選ばれたお店を、観光客の皆さんにも「地元の人たちが選んだお店」として紹介しています。その総選挙で、去年グランドチャンピオンになったのがジビエ料理のお店でした。まだ全国的にはそれほど話題になっていませんが、そのお店の方によれば、高知県の鹿や猪は非常に美味しいそうです。

高知県は日射量、降水量ともに全国トップクラスで、メリハリの効いた地形であることに加え、森林が県土の84%を占めます。山に雨が降ると、雨水は一気に野を下って海に流れ込みますが、その雨水が地盤を綺麗にし、海を肥やすことで、美味しいものを育んでいると思います。

澁谷:知事は農産物や一次産品など独自性があるものは、他県には簡単に真似できないとおっしゃっていましたが、その点についてお聞かせください。

尾﨑知事:同じ苺やメロンであっても、県独自の作物が出来上がりますので、このような作物というものは簡単には真似できないのです。例えば、「実生の柚子」は種を植えてから実がなるまでに18年かかります。真似して種を植えても18年間は実がなりませんし、さらに18年間かけて出来上がったとしても、その柚子のクオリティーが高知のものと同じものかどうかは保証できないわけです。農産物の競争力には持続性があると言えるでしょう。

◆「地産外商」から「拡大再生産」の好循環へ

澁谷:産業振興計画では「地産外商」を柱として、高知県の素晴らしい産品を県外・海外へと売り出す取組みを進めているそうですが、産業振興計画の取組みについてお聞かせください。

尾﨑知事:高知県は、足元の経済規模が決して大きいわけではなく、人口減少が進む中、足元に閉じこもっていてはジリ貧です。持続的な成長を続けていくためには、県外・海外など、外へ打って出て行き、外貨を稼いでくるような取組みが極めて重要と考え、「地産外商」を戦略の柱として、産業振興計画の取組みを進めてきました。ただ、県内には大企業が少なく、一次産業、二次産業、三次産業を含めても、県外への販路をあまり持っていない事業者も数多くあります。こうしたことから、県では、この9年間、官民協働で「地産外商」を実現するための体制や仕組みづくりに取り組んできました。

例えば、販路開拓という点で言いますと、県内の事業者が共同で使えるプラットフォームを構築し、そのプラットフォームを大いに活かしてもらえるような体制をつくってきました。具体的には、食品分野では、平成21年度に「地産外商公社」を設立して、商談会の開催や県外市場への売り込みのお手伝いをしていますし、ものづくり分野では、「ものづくり地産・地消外商センター」において同様のお手伝いをしています。

また、地産外商を進めるにあたっては、県外・海外に打って出て行けるだけの付加価値を商品に付けることができるか、さらには、それを可能にするためにコストをしっかり落とせるかといった点も、非常に重要なポイントです。そのためにも、付加価値を付け、コストを落とせるように「地産」を強化していくことが大切です。

この「地産の強化」を図るために、例えば、ものづくり分野では、高知県産業振興センターを中心として事業戦略づくりをサポートするとともに、技術支援やアドバイザー派遣など、商品のアイデア段階から販路開拓まで一貫したサポートを行っています。

澁谷:「地産外商」から「拡大再生産」の好循環への展開についてお聞かせください。

尾﨑知事:これまでの産業振興計画の取組みを通じて、地産外商公社の仲介・あっせんによる成約件数や展示商談会への参加事業者数、ものづくり地産地消・外商センターの外商支援による成約額などが大幅に伸びています。

また、産業振興計画に取り組む前後6年間の経済成長率を比較すると、平成14年度から20年度の間は、名目値で△3.4%、実質値で△6.3%のマイナス成長となっていましたが、平成20年度と産業振興計画の取組みが進んできた平成26年度を比較すると、名目値で3.4%、実質値で4.0%増加とプラス成長に転じています。さらに、この間の一人当たりの県民所得の伸びをみても、国の3.4%を大きく上回る11.0%の増加となっています。

こうしたことから、本県経済は、地産外商が大きく進み、人口減少下にあっても、かつてのような縮小基調ではなく、今や拡大する方向へと転換しつつあると考えています。こうした流れを維持・拡大し、持続的な「拡大再生産」の好循環にのせていくために取り組むべきことは大きく3つあります。

1つ目は、「担い手の育成・確保」です。地産外商の取組みを継承・発展させるためには、何よりも後継者や担い手を育成、確保することが重要です。このため、移住促進策とも連携した県内外での担い手確保対策を進めています。高知県における移住促進策は、事業の後継者を確保したり、地産外商で取り組んだ新たな事業を伸ばすような人材を確保するという視点も含めて、すなわち、人材確保という視点も含めて進めさせていただいています。

2つ目は「地域産業クラスターの形成」です。例えば、ある地域に大きな加工工場ができたとしても、全ての若者がその工場で働きたいと希望するとは限りません。地域に残りたいと願う若者やU・Iターンを希望する方々の就職に関する希望を叶えるためには、第一次産業から第三次産業までの多様な仕事を地域地域に生み出すことが重要です。この多様な仕事を生み出すための方法として、本県の強みである第一次産業など地域に根ざした産業を核として、地域地域において様々な産業の集積を図る「地域産業クラスターの形成」の取組みを進めており、現在は19のクラスタープロジェクトを進めています。

3つ目は、「起業や新事業展開の促進」です。地域の持続的な発展をもたらすためには、継続的に新たな挑戦ができる環境の醸成が重要です。このため、「こうち起業サロン」や「土佐まるごとビジネスアカデミー(土佐MBA)」における起業家養成講座などを通じて、アイデアの磨き上げや事業化に向けたサポートを行っています。

この点に関連して近年では、課題解決型の取組みを通じて新たな産業の創出を図る仕組みの構築にもチャレンジしています。例えば、本県は昔から台風や集中豪雨といった災害が多く、大地震も何度か経験しており、こうした自然災害への対策を通じて得たノウハウを活かして、防災関連産業といった新たな産業の創出を図ろうとここ数年取り組んできました。

澁谷:課題解決を産業化して、さらにそれを強みとして活かしていくということですね。

尾﨑知事:高知県は様々な分野において条件の厳しい県だと思いますが、そのような厳しい条件でも通用するような商品をつくることができれば、県の課題解決に直結するだけではなく、その商品自体を同じ課題を抱える他県にも売れるようになると考えています。

例えば、中山間地域の多い日本では、全国的に安価で使い勝手の良い林業機械のニーズがあると思います。そうしたニーズに対応した林業機械を、厳しい地形条件に直面している県内の事業者が開発することで、県内の林業のコストダウンに繋げていくとともに、その商品を県内だけでなく県外に売っていくことができるはずです。防災分野で先行した課題解決型の産業創出の取組みを、一次産業分野にも広げていきます。

澁谷:土佐まるごとビジネスアカデミー(土佐MBA)など、人材育成にも非常に力を入れているそうですが、どのような取組みをされているのでしょうか。

尾﨑知事:人材育成は非常に重要です。以前に、「人材育成は遠道のようだが、まさに近道である」とアドバイスしてくださった方がいました。その当時は、私もそんなに近道だろうかと半信半疑だったのですが、実際に土佐MBAに取り組んだ結果、その通りだと思いました。近年は、人材育成事業を産学官民連携で取り組むだけではなく、人材育成事業を通じて起業を促していく取組みを行っています。

澁谷:人材育成から起業を支援していくのは、良い取組みですね。

尾﨑知事:「産学官民連携センター」という施設を設け、ビジネススクールのような講座を展開していますが、その中で起業に関する講座も厚めに設けています。産学官連携でシーズを紹介し、それをビジネス化していく過程を応援する、そうしたカリキュラムも設けています。また、起業サロンといった常設の相談窓口も開いています。

高知県は、全国に先行して平成2年から人口が自然減の状況に陥っており、それに伴う様々な弊害も全国に先駆けて経験しています。人口が減少すれば、一般的には生産量なども縮小します。高知県も、以前は人口減少とともに、様々な生産量が減少していましたが、現在は人口が減少しても生産量が減らないようになってきています。これが1人当たりGDPが拡大している背景です。しかし、人口減少による下押し圧力は大きく、いかに地産外商による拡大傾向を持続できるか、さらなる拡大再生産の好循環に繋げることができるかが大きな課題です。この実現に向けては、地産外商のさらなる強化とともに、先ほど申し上げた「担い手の育成・確保」「地域産業クラスターの形成」「起業や新事業展開の促進」の3つの取組みを進めることが重要であり、今後もしっかりと取り組んでいきます。

◆林業の再生なくして中山間地域の再生なし、中山間地域の再生なくして地方の再生なし

澁谷:高知県には、豊臣秀吉に愛された「魚梁瀬杉(やさせすぎ)」など、林業資源も豊富だと思いますが、林業についてお聞かせください。

尾﨑知事:高知県は県土に占める森林面積の割合が84%もあり、全国1位です。この最も多く持てる資源を活かせるかどうかで、県全体の勢いが変わってくると思います。材木を県外に出し、林業が栄えていた頃の土佐藩(現在の高知県)は豊かでした。しかし、林業の衰退とともに、高知県も衰退していったのです。そのため、林業再生を図ることは、高知県にとって非常に重要なことです。

林業の復活は、中山間地域の復活に繋がります。そして、中山間地域の復活は、日本の地方の復活に繋がります。林業の生産性を上げ、付加価値を上げ、最終需要を拡大させていくことが重要であり、その最終需要を拡大させる最たる手段としてCLT(Cross Laminated Timber:ひき板を並べた層を、繊維方向が直交するように積層・接着した木質パネル)があります。様々な建築物において、大量に木を使用することになれば、その需要に併せて中山間地域が潤い、地方の県の再生に繋がっていくでしょう。「林業の再生なくして中山間地域の再生なし、中山間地域の再生なくして地方の再生なし」だと思います。

CLT(Cross Laminated Timber)

澁谷:林業を展開するためには、山や水源の確保も大切だと思いますが、その点はいかがでしょうか。

尾﨑知事:森林の公益的機能も重要です。木を使用することは、治山治水や地球温暖化対策の観点からも重要な意味を持ちます。前回の東京オリンピックによって、鉄とコンクリートの文明が日本に開けました。今回のオリンピック・パラリンピックによって、鉄やコンクリートと木が共存する文明が成立していくこととなれば良いと思っています。そうすることで、日本の田舎が強くなっていくはずです。田舎の強い日本とは、多様性を備えた日本であり、それは中長期的な成長を可能にする日本になることを意味すると思います。

澁谷:県庁舎や高知城歴史博物館にも、至るところに木材が使用されていますが、木の香りが良く、独特の温かみを感じます。

◆大政奉還から150年!「志国高知 幕末維新博」開幕!

澁谷:現在開催されている「志国高知 幕末維新博」についてお聞かせください。

尾﨑知事:観光の振興は、私たちにとって三次産業の地産外商という観点から非常に重要です。高知県の売りは「歴史」と「自然」と「食」です。地域毎に「歴史」「自然」「食」の全てを巡ってもらえる周遊コースを作り、プロモーション活動を通して、地産外商に繋げていく努力を続けています。そのなかで、今年は大政奉還から150年、来年は明治維新から150年という記念の年になりますので、歴史を前面に出して「志国高知 幕末維新博」を開幕しております。

例えば、北川村(安芸・室戸エリア)には中岡慎太郎館があり、その周りはロハスのような自然に溢れ、近くには「モネの庭」もあります。また、柚子を使用した田舎寿司など、地元に根付いた「食」も満喫できます。「歴史」という観点では、高知県は坂本龍馬を中心に、数多くの偉人を輩出しています。坂本龍馬の先生ともいえるジョン万次郎、同志の中岡慎太郎、経済分野での後継者となった岩崎弥太郎、政治分野での後継者となって自由民権運動を進めた板垣退助など、それぞれのゆかりの地を会場とし、その会場を中心に周遊コースを設けています。

メインとなる会場は2つあります。1つは高知城歴史博物館です。ここには、これまで十分に展示できなかった資料を含め、土佐藩主山内家ゆかりの約6万7千点の資料を展示しています。土佐藩は大政奉還を建白した藩ですので、幕末期関連の歴史資料をたくさん受け継いでいます。ぜひ皆さんにご覧いただきたいと思います。

また、来年の4月には、坂本龍馬記念館がリニューアルオープンし、これにあわせて「志国高知 幕末維新博」の第二幕が開幕します。ぜひ坂本龍馬ゆかりの貴重な「本物の資料」等をご覧いただき、土佐藩の歴史、幕末維新期、明治維新にかけての日本の歴史を振り返っていただきたいと思います。

澁谷:本日は、貴重なお話をありがとうございました。