第25回「ブラッスリ―ポール・ボキューズ銀座」料理長 星野 晃彦 氏 インタビュー

 

シェフになろうと思ったきっかけ

「料理」は、本気で熱中できる仕事

幼いころからの夢がシェフというわけではありませんでした。
将来について漠然と考えながら大学に入学して、3年生になって就職活動を始めた時も、これだというものがなかなか見つかりませんでした。
そんな中で、4年生になったときに初めて「料理人になりたい」と思いました。僕の実家は旅館を経営していて、「人に料理をふるまう」ということが身近にあったことも関係しているかもしれません。
「料理」は、本気で熱中できる仕事だと思ったのです。

そこから調理の専門学校に入学しました。
在籍していた大学では、既に卒業するための単位は取り終えていたので、最後の1年間は大学と専門学校のダブルスクールで通い、同時に卒業しました。
「料理」は、情熱を傾ければ傾けるだけ、それが直接相手に伝わり、自分に跳ね返ってきます。
この職業が好きな理由は、とても人情味のある仕事だからです。

そんな料理を仕事にしていく中で、シェフ(料理長)になろうと思ったきっかけは、働く環境を良くしたいと思ったことがあげられます。
技術や能力があるのに、人間関係が原因で職場を辞めてしまう人もたくさんいる中で、自分が“シェフ”になって、この状況を変えていこうと思いました。
自分が職場で一番偉くなればこの環境を変えることができる、と考えたのです。
その為には、技術や知識が必要だったので、僕はさらに、どんどん料理に熱中していきました。

株式会社ひらまつに入社して、10店舗経験してきました。
10店舗分の調理場、働き方を見てきて、「自分がシェフだったら」と考えながら、常に“自分の調理場”をイメージしてきました。
今、実際にシェフになって、自分の調理場を持ちましたが、若い後輩に対して失敗を厳しく怒ることはありません。失敗は誰にでもあることです。
そのことを怒るよりも、失敗したことで落ち込んでいる後輩を励ますことのほうが重要だと思います。
『応援してくれている人がいるから頑張ろう』、そう思うことが成長につながると考えています。

これを乗り越えたから変わったなという出来事は?

フランスに行ったこと。調理場以外にも多くのことを学びました。

1番は、1年半もの間フランスに行ったことが分岐点だったと思います。
入社から6年目に差し掛かるころ、僕はひらまつ本店にいたのですが、当時のシェフに「フランスに行きたいか?」と突然聞かれました。
それまでの5年間は、あまり記憶が無いくらい本当に大変でした。
僕は大学を出てるので、ただでさえ2~3年遅れていて焦っていました。
早く一人前になりたい、料理長になりたい、と、頭と気持ちだけが先行してしまい、
腕がついてこなければ当然ながらなかなか思うようには進まないのです。
それでも無我夢中で一生懸命やっていましたが、
あるとき、「別に会社を辞めて、自分でフランスに行く方法もあるのではないか」と思いついた矢先に、ちょうど声がかかったんです。

いざ、実際にフランスに行ったら、週休二日の日月休み、就業時間8時間程で日本との違いに驚きました。
1つのポジションを責任を持って任せてもらえる、「やってみろ」といってもらえました。
フランスでは、「美味しい味」が学べたことが一番大きいですね。食材もとても良いものばかりでした。
また、厨房以外でもたくさん勉強が出来たことはとても良かったと思います。
日本では見つけられなかった料理についての書籍も多く見つけることができました。
フランス語を学ぶこともそうですが、すべての時間を勉強に費やすことができましたね。
フランスに行ったことで、改めて、料理人という職業が素晴らしく、また面白いと思えました。
日本に帰ったときは、自分の体験したことを伝えたい、多くのことを日本に持って帰りたい、という気持ちでいました。

「ブラッスリー ポール・ボキューズ 銀座」について

『聞いて美味しい』『見て美味しい』『食べて美味しい』の三原則を追求していくお店

このお店は、ポール・ボキューズ氏の哲学(フィロソフィー)を継承しているお店です。
ブラッスリ―では、低価格帯で多くのお客さまにフランス料理を楽しんでいただけます。
僕は、このお店でたくさんの方に心豊かな時間をすごしてもらいたいと考えております。

フランス料理は高いお金を出さなきゃ食べられないというものではなく、
世界中の人々から、気軽においしいワインと食事を召し上がっていただけるのが
ブラッスリー ポール ボキューズです。

僕にとって、美味しいの三原則があります。
『聞いて美味しい』『見て美味しい』『食べて美味しい』の3つです。
何を使っているのかよく分からないという料理ではなく、誰もが分かる“美味しい”を提供したいです。
例えば「本日は、旬の●●を使用しており、こんなふうに調理して…」と説明されたときに、
すぐに美味しそうだな、とイメージが出来るもの。
実際に目の前にしたときにも、早く食べたい!と思えるもの。
そして口に入れたら、やっぱり美味しいと言えるもの。
何を使っているか見た目に分からないものは興味をそそるかもしれませんが、僕は見てすぐわかる“美味しい”を提供したいですね。

このお店にはリピーターのお客様も多くいらっしゃるので、飽きてしまわないように工夫を重ねます。
生産者の方のこだわりが強い食材を使うことで、自信をもって、お客様には楽しんでもらいたいですね。
ポール・ボキューズ氏の気持ちに+aして、僕の気持ちを料理に乗せてお客様に提供していきたいと思っています。

 

食材選びと料理に対する想い

その時一番おいしいもので、料理は食材ありきで考えて作っています。

食材の旬を大切にしていきたいです。
どの食材にも、1番美味しい時期があります。決まったメニュー、決まった食材で提供するのではなくて、その時々で1番美味しいものを提供したいですね。
僕の料理は、食材ありきで考えています。
食材にアンテナを張った業者さんや、農家の皆さんにおすすめされた食材から料理を考えていくことが多いです。
だからこそ、生産者の方とのつながりを大事にしていきたいと思っています。
食材の背景、ストーリーが感じられればより料理で表現しやすいですし、
生産者の方がその時一番自信を持って、誇りを持って提供してくれる食材をやっぱり使いたいです。

メニューをつくるときは、条件を絞って考えています。
例えば、季節感やその時の気温。また、特定のワインに合う調理法や組み合わせ、お皿の温度や色味などです。
一皿にいろんなものをのせるのではなくて、統一感がある一皿ということは意識していますね。
今は料理に関しても、たくさんの情報があふれています。
ネットを検索すれば美味しいレシピや技術もたくさん公開されています。
そこで料理の味を差別化するものは、作り手の情熱だと思っています。
僕は料理教室も開催していますが、そこでは僕の持っているレシピをすべて公開してもいいと思っています。
他の人が、レシピ通り同じように作っても、同じ味は出せないと自負しているからです。
料理に対する情熱は、そのくらい僕の中で揺るぎないものですね。

 

 

産地視察ツアーの感想

産地に行くと、食材の答えが見つかります

2018年11月に参加させてもらった熊本県産地視察ツアーでは、
現地を見て、全身で、五感全部でその土地を感じることで大切なことを学べましたね。

生産者の方と接することによって、食材に対する思いはもちろん、その人の人柄も分かります。
業者の方からただ届けられる食材と、生産者の方のことを知っている食材では、食材に対する思いも違ってきますよね。
あの人が誇りと自信をもって作った食材だからこそ、より美味しい料理にしようと思えます。
生産者の方を知ることで、一番おいしい料理をお客様に提供できると思います。
料理に対する意味や意義を再確認する機会を与えていただきました。

 

今後の展望について

“美味しい料理”をつくることと、後進育成もしていきたいです

フランス料理はどんどん進化していますが、
昔の時代に作られたレシピは、現代にも通ずるとても美味しい料理なのです。
いまはそのことを知っている人が少なくなってきていて、フランス料理の基礎となるもの、昔のレシピの素晴らしさや重要性が薄れてきているように思っています。
僕は、基礎となるクラシックなレシピがとても大切であると考えています。
独自で昔のレシピを紐解き、料理を作っても、なかなかレシピ通りにできないこともあるのです。
情熱を持った1人のシェフの下で働くことは、昔ながらの技術・レシピを学ぶ機会が多くなり、自分の成長にも大きく繋がります。

自分もまだまだフランス料理の知識、技術を磨いていきたいと思っていますが、
これまでやってきたこと、どうすれば美味しくなるのか、という料理の方程式も習得してきました。
でも、この習得してきたものを、自分がやり続けても意味がないのです。
毎月の料理教室でのレシピ・技術の披露も含め、今の若い年代の料理人、後輩に教えていくこと、伝えていくことに意味があると思っています。

後輩が独立したときに、僕のこの思いが伝わり繋がっていったら、それ以上に嬉しいことはないですね。
『ポール・ボキューズ銀座出身』のシェフを輩出していきたいです。

 

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